本日も晴天なり。

「ちゃっかり」が座右の銘のワタクシ。毎日を楽しく驀進中。 趣味でネット小説を書いています。その更新状況やイラストアップなどの報告も兼ねて。

挨拶。


 ハロー皆様、こんにちは。

 ご機嫌で日曜日を過ごしてらっしゃるでしょうか?

 私はゆーっくり起きて(朝ごはーん!のブーイングはさらっと無視した)、午前中は家の大掃除をしました。ちび達は二つあるトイレ掃除(やり直しが3回越えると次に持ち越しです)そしてエブリスタさんの更新をして、昼ごはん。で、今ですね。

 ここ最近ずーっと考えてたんですが、このブログ、そろそろ5年目が終わるんです。2012年の6月から明紫のブログとして開始しましたので。毎日くだらねー色々なこと、それから詩やイラスト、たまに短編や漫画を発表してきました。一番いい時で一日のPVが6000だったんです。あの時はでも、コメント欄も荒れまして大変でしたけれど、たくさんの人が訪れてくださってホントに楽しかったです。

 で、ここに来て、ですね。

 そろそろブログをやめよかな、と。

 日常のことを書くのも、子供らが大きくなってきたのもあってそろそろ終わりかな、と。

 ブログを始めてから病気になりましたのでこれは一種の闘病日記でもあったのですが、状態は少しずつですが良くなってます。だけど別に不幸話を書きたいわけじゃないし、これも辞める時かなと思います。

 創作はやめないんですよ。でもブログもツイッターもホムペもは、too muchかなと思っていたんです。

 ここを覗いて下さる方も随分減りましたし、日常を書くことのメリットは元からそんなにないですよね。私の人となりを知ってもらいたいというのもありましたし、気楽に楽しんで貰えればと思って始めたのですが、5年やれば上出来かなと思います。

 というわけで、と思って・・・でもここ、短編や漫画もあるんだよな~と躊躇もして。どうしようかな~・・・。

 とりあえず、日常の記事は消しましょうかね。頂いたコメントが勿体ないので、それらのバックアップをしてから消します。ライブドアブログは有料で今までのデータを本に出来るんですよ。ここは私の日常がかかれた日記そのままですので、自分用に一つ作ろうかな、とかね。でもそれってコメントものっけてくれるのかな。それだったら絶対やるんだけど。

 そんなわけで。

 皆様、今までどうもありがとうございました。

 日常の何だこれー!への突っ込みに笑ったり一緒に怒ったりしてくださって、私は大変幸せでした。その時々の悩み事にも皆様からアドバイスを頂いて、乗り越えてこれたように思います。

 バックアップが出来たらとりあえず、プライベートな記事は消しますね。1週間くらいはかかるかな。何せ膨大な数なので(苦笑)漫画や詩、短編のページをどうするかはまた考えます。ホムペにあるものは消してもいいのですけれど色んな方に読んでもらいたいしなあとも思うしで。それだけでも残そうかな~・・・。

 もうすぐ桜が咲きますね。

 温かい季節が来ます。それを楽しみに待ちましょう。そしてどうぞ、幸せでいてください。

 心からの感謝を込めて!

 アッデュ~!!


 明紫 2017年3月19日



 

気まぐれ短編クリスマス編②「山神様にお願い」後編


 気まぐれ短編クリスマス編②「山神様にお願い」後編



 2階には一部屋しかない。8畳ほどのその部屋は一面緑色に塗られ、トラさんが育てている観葉植物がところ狭しと置いてある。真ん中に従業員で使う長テーブル。それから椅子が2脚。古びたソファー。そして部屋の隅っこに、トラさんが使ってるのだろうと思われる毛布と枕が置いてあった。トラさんはそこで横になって、スースーと寝ている。

 ・・・気持ちよさそうに寝てる・・・。

 私はゆっくりと音をたてないようにして近づいて、眠る彼を見た。

 白くてピンと張った肌、つりあがった狐目。つんと尖った鼻。笑うと大きくあけられる口。今は閉じられているこの瞳が、最後に私を見たときには冷たい色を浮かべていた。

 私はそばに寄って、泣きそうになりながらトラさんの寝顔を見つめる。・・・ちょっとやせたみたい。ご飯ちゃんと食べてないのかな。今は力をうしなって転がっている右手から、つ、とタバコの匂いがした。

 普段は吸わないらしく家でも彼がタバコを吸うことはなかったけれど、どうやら店では吸っていたらしい。

「・・・イライラしてた、ん、だろうなあ~・・・」

 私は小さな声で呟いて、鞄とコートをぬいで後ろの床に置いた。スースーと寝息が聞こえる。閉じられた瞼。あけて私を見たら、一体どんな顔をするだろう――――

 ずっとそうして寝顔を見ているわけにもいかない。大体龍さんが下で心配しているだろう。私はちょっと躊躇したけれど、ゆっくりと右手をトラさんの頬へ伸ばす。触れたかったのだ。久しぶりに見ることが出来た、やっと会えたこの人に。

 そうっと彼の頬を指先で撫でる。

「――――トラ、さー・・・」

 ぱっと、彼の目が開いた。

 そして一瞬凄い力で体がつかまれたと思ったら、転がされて引き寄せられ、手首を床に押し付けられる。

「うっひゃあああああ~っ!??」

 私は叫んで、目を見開く。気がついたら私は彼に組み敷かれていた。

「なっ・・・なっ・・・なっ・・!」

 私の上に覆いかぶさったトラさんは、眠そうに瞼を瞬いてぼんやりした表情で私を見た。中々焦点があわないらしい。

「・・・おや、シカ坊」

「ちょちょ、ちょっと店長~!いきなり何するんですか~っ!」

 私は組み敷かれたままで叫ぶ。何が起こったのかわからなかったけれど、とにかく今自分がどういう格好をしているかは理解した。スーツのスカートはふとももまでずり上がってしまっている。

 う~ん?と微かに首をひねって、トラさんは言う。

「・・・えーと・・・たーぶん・・・寝込みを襲われそうになったから、応戦したんだ、と思う・・・」

「おおお襲ってない!起こそうとしたの、普通に!普通に~!」

「ああそう」

「店長っ!?ちょっと、ちゃんと起きてくださ~い!」

 はいはい、そう言って、トラさんはやっと床に押し付けた私の両手を離してくれた。ふあああ~と欠伸をしながら壁にもたれかかって座り、目元をこすっている。

 私はどうすればいいかわからずに、とりあえず起き上がって彼に言う。

「あの・・・おはようございます」

 場所が場所だからか、私はつい敬語になる。一緒に暮らし始めてからは距離を感じるからため口で話すようにってトラさんに散々言われてきたのに。

「うん、おはよ」

「えっと・・・店長、大丈夫ですか?」

「あ?ああ、うん。それよりシカ」

 はい?と聞き返した私を、こすっていた片手をちょっとずらしてトラさんが見た。その目はもうしっかりとした光が宿っていて、私はびくりとする。・・・これって、機嫌はよくなさげじゃない・・・?

 たら~っと冷や汗が背中を流れたのを感じた。

「どうしてさっきから、店長呼びなわけ?口調もですますだし?」

「へっ・・・」

 私はひきつった。・・・ああ、そういえばそうだ。私、敬語だけでなく、店長って呼びかけている。

 同棲を始めてこれも彼に散々言われてきたことだ。「俺を店長って呼ぶの、そろそろやめようかー」って。トラって言え、と。それを恥ずかしがる私を苛めて苛めてからかいまくって、彼はさんざん喜んだのだ。

「ええと・・・あの、ついです、つい。だってほら、ここはお店だし!」

 私は必死になって説明する。家では勿論トラさんって呼べるのだ!だけどここは山神の森で、ここにくるとどうしても従業員だったころの記憶を思い出してしまう。これって仕方ないことだよね~!?

「ですますはともかく、名前で呼んで」

「あの・・・はい。えっと、じゃあ、トラさん」

「ん」

「帰りましょう、そろそろ」

「ん?」

 トラさんはまだちょっとぼーっとした顔で、私を見た。私は座ったままでもう少し近づいて、小さな声で言う。

「一緒に部屋に戻りましょ?ここで寝てちゃダメですよ」

 彼はもう一度欠伸をした。それから手で髪をぐしゃぐしゃとかき回して、目を細めて言う。

「――――もう俺が嫌になったんじゃなかったのか?」

「えっ!?い・・・いやいやいや!そんなことないですよ、何言って・・・」

「だって自営業の彼氏じゃ不満なんだろ」

「不満なんかじゃないです!あの・・・私が間違って・・・」

「俺はスーツ着ない」

「え、あ、はい。それでいいんです」

「だら~っとするのが好きだし。裸足も好きで、外見はあんま気にしない」

「判ってますよう!それでいいんです!」

 トラさんが天井あたりに視線をさまよわせながらたらたらと呟くように言うのを、私は必死になって打ち消した。私が間違っていたのだ。彼は彼で、唯一無二なのに。それなのに、他の皆と同じようにして欲しいと思ったなんて、失礼極まりないって。

「ごめんなさいっ・・・私が、その――――」

 トラさんがぱっとこっちをむいてククク・・・と笑った。

「・・・必死だな、シカ」

「うっ・・・」

 悔しい。私はついに涙ぐんだ。いつもの緑の部屋、この森で、主のようなトラさんは大きくにやりと笑った。

「―――――判ってる。ずっとグチグチ言うから、鬱陶しくてからかっただけだ。シカが俺にぞっこんなのは知ってるよ~」

 ・・・もううううう~・・・。からかいで家出したってこと!?もう、もう~!

「お店の皆さんに迷惑かけたって聞きましたよ!」

 私は怒り心頭でそういいながら詰め寄る。トラさんはちょっと首を傾げた。

「んあ?そ~んなことしてないよ~。ほら、猫かぶってたのを、外しただけだよ。俺は元々それが普通なの」

「そそそんなことないでしょ!ウマ君を泣かしたってツルさんが言ってましたよ!」

「はあ~?そ~んなことしてねえぞ。俺は要求を口に出しただけだし」

「・・・なんて言ったんですか?」

 トラさんはまだ眠そうな目をふにゃりと細めながらあっけらかんと言った。

「『龍さん、俺馬刺しが食いたい』って」

「ばさっ・・・」

「『それも、血が滴るような活きのいいが』」

 ウマくーん!!可哀想だ!私は心の底からその時のウマ君に同情した。機嫌が悪く半眼になった店長は、さぞかしさ殺気立って見えたに違いない。ううう。不憫だ!

「め、め、迷惑かけちゃダメですよ!店長なのに、そんなっ・・・」

「店長だから出来るんでしょ~。ほら、そんなことばっかいわねーで、こっちおいでシカ。おはよーのちゅーは?」

「はっ!?」

 何だって~!?私はきっと赤面しているはずだ。悔しくて視線を外し、私は立ち上がろうとする。その時手がのびてきて、私はまたひっぱられ、床の上へと転がされる。

「うっきゃああ!?」

 がばっと上に覆いかぶさって、トラさんが言った。

「そんなツンツンすんなよ。それも涙目で。食べたくなるぞー」

「たっ・・・食べって――――」

 ここではダメですよっ!!それは声に出せなかった。その時にはすでにトラさんの顔は降りてきていて、私は久しぶりの熱いキスを受けていたからだ。

「ん~・・・んん~っ!」

「これこれ、反抗しないの。余計噛み付きたくなるからさ」

 ククク、とトラさんは笑う。激しい口付けに頭がくらくらする。寝起きとは思えない凄いスピードで私が着ているスーツのジャケットのボタンを外してしまったらしく、彼の大きな手がブラウスの上を這い回る。

「ひゃっ・・・ダメで・・す!ここでは・・・も、う・・」

 ジタバタ暴れてやろうにも、トラさんは余裕で組み敷いてけらけら笑うばかり。口付けで頭が痺れる。こぼれた涙は彼が舐め取ってしまう。トロトロになってしまった私がほとんど半分ほど剥かれたと思ったその時、ガーン!と強烈な金属音が部屋中に響き渡った。ぴたりとトラさんの手が止まる。

「・・・コラ、おめーらいい加減にしやがれ。俺が下にいるっつーの」

 森の入口、階段の踊り場で、龍さんが眉間に皺を寄せて立っていた。折角の美形を裏切るしっぶ~い顔つきで。手にはフライパンとおたま。どうやらこれを叩いたらしい。

「うっきゃあああ~!」

 私は慌ててシャツを胸へ引き寄せて叫ぶ。だけどトラさんはそのままの体勢で、あははは~と笑った。

「あ、ごめん龍さん。まだ居たんだ」

「居て悪かったな。俺だって早く帰りたいっつーんだよ。でももし虎がシカに暴力働いたらダメだと思って・・・」

「やだなー。シカ坊にそんなことしませんよー」

「・・・今してるのは何なんだよコラ」

 トラさんがまたあははは~と軽やかに笑う。

「これは愛の抱擁ってヤツ」

 ――――違いますっ!!私は彼の下でそう思ったけれど、声には出さなかった。

 龍さんは嫌そうな声で唸ったけれど、ため息を吐いて言った。

「・・・ま、仲直りは出来たようだな。俺は帰る。全く今日は俺だって大事な日なのに・・・」

 あれ何か用事あるの?と聞くトラさんに、龍さんは俺だって彼女がいるんだよっ!と噛み付く。

 それから階段を降りかけながら、ちょっと顔を出してにやりと笑った。

「下の鍵はしめといてやる。終わった後は換気くらいしとけよー。―――シカ、まあ楽しめ」

「はっ!?ちょっと龍さん~っ!?」

「ありがとー龍さん、お疲れ様~」

 お~、と片手を挙げてげらげらと笑いながら龍さんは降りていった。そして店のドアの閉まる音。

 両手で自分の体を支えながら、上からトラさんが見下ろしてくる。その顔は嬉しそうで機嫌がよさそうで、今にも舌なめずりをしそうな顔だった。

「あのっ・・・ト――――」

「ここが」

 彼が言った。

「初めてシカを抱いた場所だったよな、そういえば」

「――――」

「折角クリスマス・・・あ、今日はイブか。まあ何でもいいんだ。とにかくシカが半裸で俺の下にいる。山神様もきっと見守ってくれてるし、ここは喜んで喰らって―――――」

「うっきゃあああ~!」

 トラさんは、始終笑顔だった。

 いつも私に見せてくれていた優しい笑顔じゃなかったけど、でもそのたくらんだような、悪そうで嬉しそうな笑顔も、実は私は好きだったりするのだ。

 服はすぐに全部どこかに飛ばされてしまった。上に下にと私を転がしながら、トラさんは言う。シカ、スーツを着ているやつらはこんなことしないよ、って。俺は違う。惚れた女は骨まで全部しゃぶりつくしてやるんだ、って。ほらね?知らない世界を見せて欲しいなら、まだまだ連れてってやるよ。これでも判らないなら判るまでやるけどー?って。

 私はもうぐちゃぐちゃになってしまって、声がかれてしまったのだった。

 これは見せしめだ、そう言って彼は私の全身にキスマークをつける。大きく揺さぶられていて私は苦情なんていえなかった。それどころじゃなかったのだ。熱くて、ドロドロで、甘すぎて。

 外の気温はかなり低かったはずだ。

 だけど、山神の2階、森は確実に夏の暑さを再現していたと思う。

 光る目を細めて虎が笑う。

 私はその嬉しそうな声を聞きながら、ああ、幸せだなあなんて思っていたのだった。



 翌日、トラさんはツルさんに散々文句を言われたらしい。

 店に出たら龍さんがべらべら~と喋ってしまっていて、仏頂面のツルさんがいたそうだ。そして彼女は両手を腰にあてて、「全くいいオッサンが何してるんですか!そーんなに店を私物化するならオーナーに話しますし、こんなことが続くなら私は今日で辞めさせてもらいます!」と大声で怒鳴ったとか。

 クリスマスで、客も多い予定。不機嫌なバイトリーダーでは店が盛り上がらないし、ツルさんに辞められたら勿論めちゃくちゃ困るので、トラさんは渋々謝ったそうだ。主に森で私とした行為について。そしてその後で、お喋りな龍さんを階段から落としてやろうと付回したらしい。

 気がついた龍さんはトラさんに背中をむけないようにし、常に包丁を握っていることで防衛したとか。

 そして、その二人を見て頭痛がしたツルさんは結局日々立オーナーに電話をいれ、閉店後、店長と板前は揃って注意を受けたらしい。ツルとウマとウサギの前でコンコンと。

 私はその話を口を尖らせるトラさんから聞き、心の中で大いに笑った。

 ・・・来年も、山神が平和でありますように。



 「山神様にお願い」終わり。


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 連日読んで下さってありがとうございました~!

 コメント頂けたら喜びます!どうぞ今後の活力の為に、宜しくお願いいたします~。

 皆様ハッピーなクリスマスをお過ごし下さい!


気まぐれ短編クリスマス編②「山神様にお願い」前半

 

 気まぐれ短編クリスマス編②「山神様にお願い」前半



 「コントロールしようとしないでくれ」

 そう言って、店長・・・もとい、トラさんは部屋を出て行った。

 その時の、無表情が忘れられない。

 狐目の切れ長の瞳が、厳しい色を浮かべて私を見ていた。いつもの軽口もなくて、厳しくて冷たい雰囲気を背中にまとって行ってしまった。

 私はパジャマのままで、両手を脇におろして拳を握り締め、立っていたのだった。

 ―――――あんな顔、するなんて。

 驚きで呆然となったあとには、迫りくる寂寥感に対処するのに精一杯だった。・・・私は、そんなに悪いことを言ったのかな?


 大学生の最後の年に1年足らず働いた居酒屋「酒処 山神」の店長である夕波虎太郎と同棲を始めて半年経っていた。最初は店が休みの前の晩から来るくらいだった彼は、5月には部屋の更新が来たからちょうどいいかと思って~などと言いながら完全に一緒に住むようになったのだ。今は12月で、外の世界は秋から冬に変わろうとしているところ。よく考えたら今日は23日なのだ。あと二日でクリスマスがやってくる。そのせいで、街中煌びやかに装飾されていたし、クリスマスキャロルなんかも流されていた。

 恋愛が盛り上がる季節。しかも私には恋人がいる。なのに――――――どうして一人でいるんだろう。

 私は自分が休みの日曜日、泣きたい気持ちでクッションを抱いて転がっていた。トラさんが、いない部屋で。

 多分、変わったのは私だったのだろう。新社会人として会社でもまれ、朝の通勤電車から始まって夜の電車まで、今までとは違った世界が広がっていて、私はそこにどっぷり浸かってしまったのだった。スーツを着て働く男性に慣れたし、日本社会での「一般常識」にも慣れてきた。TPOにあわせて服を変えるとか、いつでも腕時計で時間を確認して行動するとか、そういうことに。

 だけど、付き合っている男の人は所謂サービス業の人。仕事するのは夜だし、休みは基本的に平日。仕事着がTシャツとジーンズで、仕事帰りに待ち合わせしてちょっとお洒落なレストランで夕食をってわけにはいかない。

 気にしてなかった。学生のときは、勿論。大体店長は私より6歳も年上で、全てにおいて彼の方が余裕があったのだ。私はいつも手のひらで転がされるだけで、憧れをもって彼を見つめていたのだった。

 それが、最近では気になりだしてしまったのだ。彼の色々なところが。

 ・・・というか。もっと、ちゃんとして欲しくて。

 毎日着ているだらーんとしたTシャツじゃなくて、たまにはキチンとした格好をして欲しい。髪の毛が伸びてるのも気になるし、休日に友達と遊んだりしないのかって気になる。会社のメンバーで飲み会があったりすると、行くなとは言わないけれど高確率ですねるし、男性が混じっていたら不機嫌になる。それも最初は嬉しかったけれど、何度も続くと鬱陶しくなってくる。

 私がそういうことを言うと、トラさんは決まって呆れた顔をして言ったものだ。『だって、シカ、それ無理でしょ。そのキチンとした格好で俺、一体どこにいくわけ?』って。たまの休日があえば二人で家でまったりすることが多いし、確かに言うことはもっともなのだ。それにこれも『服装規定がある店じゃないからねえ~。だって龍さんなんか、どうするの。また長髪になってきてるし、今では茶髪でなくほぼ金色だよー?』とか、『俺の友達って・・・そんな上等なもんいないけど、いてもつるんで行くのはキャバくらいだよ。行っていいわけ?』。

 勿論そんなことはない。だけど、どうしても比べてしまうのだ。普段一緒に行動している会社の同僚や先輩の男性たちとの違いをつい口に出してしまうのだ。私の中での普通がそういう風になってしまって、元々自由な店長とは波長が合わなくなってきたのかもしれない。

 だけど。

 私は涙をぬぐって携帯電話を見つめる。

 こんなに連絡がないとは思わなかった――――――


 私が付き合っている男性は、居酒屋で店長職をしている。自然の愛好者で、彼は自分で信仰の対象「山神様」をつくって店に祀り、他の店員も皆それにならって手をあわせて拝むのが習慣になる店なのだ。幼少時から荒れていたらしく、一時はヤクザの跡取りになるかって話まであったと聞いた。そんな一癖もふた癖もある彼が、小娘の私の言いなりになんてなるはずがないのだ。

 俺をコントロールしようとしないでくれ、そうトラさんが言って二人で住む部屋を出て行ってから、5日が経っていた。

 毎日心配して携帯電話をひたすら見つめていた。トイレに行くときにももしかしたら連絡があるかも、と思って携帯するほどに。だけど自分から電話もメールもする勇気がなかった。電話をかけて、『何?』って冷たい声で言われたら?別れようって言われたら?そう考えたら泣けてきて出来なかったし、本人に会いに店に行く勇気もなかった。あの優しい笑顔で見てくれないかもしれない。今度冷たい目で見られたら、それだけで死ねるかも、と思うほどだったのだ。

 だけどこれ以上長引くと、私が壊れる、そう十分に思い知った時、私は酒処山神の料理人、龍さんに電話した。

 山神で日々その腕を振るう板前、右田龍治その人に。

『おー、シカかーっ!お前、どうなってんだよ~』

 開口一番でそういわれて、思わず私は謝ってしまう。

「え・・・っと、その・・・すみません、龍さん」

『虎と喧嘩したんだって?あいつ今ず~っと森にいるけどさ、こういっちゃ何だけど、邪魔なんだよ!寝起きが悪いのは知ってるだろ!?誰にでも喧嘩ふっかけてきて、こっちは皆で迷惑してるとこ!』

 べらべら~っと一気に龍さんが喋って、私は眩暈がした。・・・・トラさん、やっぱり森で寝てたんだ。

 森というのは、酒処山神の2階のスペースをさす。そこは店長として就任してすぐのトラさんが壁も天井も緑色に塗り、観葉植物をところ狭しと置いて育てている、一種温室のような場所なのだ。山神で働く人はそこで休憩したり食事をとったりする。緑に遠慮しまくって人間がすごす場所だけど、やたらと落ち着いて、皆好きだった。

 私は一度唇をなめて湿らせて、電話の向こうに頭を下げた。

「・・・すみません・・・」

『何があったんだよ、シカ?鬱陶しいから、さっさと虎を迎えにきてくれ。毎日ぶっすーとして八つ当たりされたんじゃ、こっちがもたねーよ。悪魔だぜーマジで!』

 料理人である龍さんは、ボクサーでもあった人だ。そしてトラさんよりも先輩にあたる。居酒屋山神においては店長であるトラさんに意見や主張が出来る、唯一の人間であるといっていい。だけど、かなりもてあましているようだった。

「あの・・・店長何か言ってましたか?」

 私の質問に、龍さんは不機嫌に『ああ?』と返す。

『しらねーよ。とにかく不機嫌で面倒くさいんだよ!――――あ、コラ、何だよツル。やめろ~、俺が話してんだろ!おい!・・・あ―――』

 電話の向こうで色んな声が聞こえて、それから携帯電話が奪い取られたようだった。今度は頼りになるフリーターのバイト頭、ツルさんの声が聞こえた。

『シカちゃーん?ハロー、久しぶり~元気してる~?』

「あ、ツルさん!お久しぶりです、元気です~!」

『ごめんね、龍さんがグダグダと。だけど今回はほんとトラさんちょっといただけないのよ~。昨日もさ、仕事上がりの龍さんの稲荷寿司を食べるまで動かないってごねたのよ!』

「へっ!?あの・・・稲荷寿司?!」

『そうそう。朝の1時にさ、あるわけないっつーのよねえ!それで龍さんが無理だっていったら、店壊すって半眼になってさ~!』

 えええっ!?み、店を壊すの!?稲荷寿司が食べられないから!?私は電話を持ったままでひきつって、声を失う。

「えっ・・・あの・・・それで結局・・・?」

『ウマ君も色々と頑張っていったんだけど、トラさんに喧嘩売られてビビッて泣いてたわ、可哀相に。たまたま通りかかったウサちゃんにも八つ当たりするしさあ!で、仕方ないからって龍さんが冷蔵庫に作って置いてあった秘蔵のレアチーズケーキを出したのよ。何かそれは自分の彼女に持って帰ろうと思ってたやつらしいんだけどね。そしたらとりあえずおさまって』

 ・・・迷惑な話だわ~・・・。私は脂汗をたらしながら相槌を打つ。すみません、龍さんの彼女さん。申し訳ないです・・・。

『だからさ、今日あたりでも、シカちゃん休みなら迎えにきてくれない?これだとその内仕事にも支障が出そうだから―――――あ、ちょっと龍さん~!!』

『ようやく取り返したぜ!俺の電話だっつーの!・・・あ?ウマも喋る?ダメダメ、まだ俺はそんなに話してないんだからな』

 今度はウマ君が電話をかわってくれと言ってるらしい。電話の向こう側は色んな人間の声が入り混じって騒がしかった。店長がしでかした迷惑の苦情をこれ以上うけるのはごめんなので、私は乾いた笑い声を残して電話を切ることにした。龍さんが最後何か怒鳴っていたけれど、無視だ無視。

 再び静かになった私一人の部屋の中、切れた携帯電話を床に転がして、私は頭を抱えた。

 ・・・・・・・・・・・あああああ~・・・・どうしよう・・・。


 だけど、仕方ないよね。

 だって自分が蒔いた種なわけだし。

 そう思って、私がついに山神へ行くことにしたのは翌日の月曜日だった。

 月曜日は酒処山神は定休日で、それはクリスマスイブだからといって変わらない。だから店にいるとしたら今は森で暮らしているらしいトラさんだけだろう、そう思ったからだった。他のメンバーにも会って謝りたいが、その前に数々の質問を受けるはめになりそうだし、今の私にそんな元気はないのだ。

 というわけで、月曜日は必死で仕事を終わらせ、何とか就業時間すぎてすぐに退社する。バタバタと走っていたら、会社のロビーで前から原さんがやってくるのが見えた。同じチームの男性の先輩で、春から私に仕事を一通り教えてくれた人だ。

「あれ、今日は早いんだな、上がるの。鹿倉、今日は予定あるのか?」

 原さんはニコニコして片手を上げる。

「イブだけど、お前まだ彼氏と喧嘩中なんだろ?独身組みで飲みにいかないか?」

 私は走りから歩きに変えて、出入り口を目指しながら答えた。

「あの・・・今日はすみません。ちょっと用事がありますので」

「用事?ああ、そういや急いでるな。どうした?」

「ええと・・・その、彼氏を・・・」

 原さんが、私の前で立ち止まって、ああ、と呟いた。私も立ち止まる。原さんには一度、店長とのことで相談に乗ってもらったことがあるのだ。俺より年上の彼氏かよ~なんて散々はやされて。

「例の?どこにいるかわかったのか?」

「はい、店で寝ているみたいで。それで迎えに・・・」

 原さんが腕を組んで、ちょっと首をかしげた。

「鹿倉、そんな必要あんの?迎えに行ってどうすんの?」

「えっ・・・」

 私は驚いて立ち止まる。

「迎えにいってうまくいくのか、それ?ちょっと子供っぽいだろ、いや、俺はその人のことよく知らないけどさ。鹿倉ばっか頑張ってないか?」

 私は一瞬言葉を失って、目の前に立つ男性を見つめる。・・・私ばかり頑張って・・・?えっと・・・いや、そんなことは――――――

「経験が増えたら付き合う人だって使う時間だってかわるのは普通だろ。しんどいなら、付き合うのやめろよ、その彼氏」

 私が黙っているのを、同調して考えているのだろうと思ったらしい。原さんは肩をぽんぽんと叩いて、私に笑いかけた。

「な、もうちょっと放置しとけ。大人なんだから相手に動かせろよ。大体ちょっと情けねえ彼氏だよな。クリスマスだからって彼氏にこだわる必要ないと思うし、今日は楽しく飲みに行こうぜー、他のやつらも誘ってさ、いつもの店で」

 無意識に、私は後ろに下がって原さんと距離をとった。それから一瞬呆気にとられたような顔をした彼に、頭を下げる。

「とにかく、今日は無理なんです。すみません、お先に失礼しますね」

 ああ、と後ろで声が聞こえる。だけど私はもう振り返らずに出入り口目指して駆け出した。

 腹が立ったのだ。

 あの一瞬で。

 だって店長のこと、何にも知らないのに。彼は優しいし、とっても魅力的な人なのだ。なのになのに、今あの人、彼をバカに―――――――

 だけど電車に飛び乗ってから気がついた。原さんにそういわせたのは、私なのだ。今までの私が話すトラさんのことで、原さんの中にはイメージが出来ているはず。ということは、店長を酷く言わせたのは私なのだ。・・・ああ、何てこと。

 私はぐっと唇をかみ締める。

 何て酷い彼女だったんだろうって思って。


 商店街の端っこ、ちょっと奥まったところに山神はある。

 私は暖簾の出ていない店のガラス戸を覗き込んだ。すりガラスだから中は見えないけれど、明かりが小さくともっているのがわかった。やっぱりトラさんいるんだ。段々緊張してきた。一つ深呼吸をして、私は裏口へと回る。

 ここを使うのは従業員とオーナーだけ。鍵はしまってるかもしれないから――――。拳でどんどんとアルミのドアを叩いた。

 誰かが近づいてくる音。私は緊張で全身が震える。それからドアが開いて―――――

「―――お」

「あ・・・龍さん!」

 ドアを開けたのは板前の龍さんだった。裏口にひとつだけある裸電球が彼の髪をきらめかせる。

 あ、そういえばトラさんが龍さんは金髪にしたって言ってたっけ・・・。見慣れた茶髪ではなく、今の色はプラチナブロンドに近かった。またのびて肩を超えている。耳にはブルーの3連輪のピアス。それもキラリと光って揺れる。何か・・・前より迫力が増したような?更に太くなった首筋を見て、私はちょっと緊張する。

「シカ、ようやく来たのか~・・・」

 ドアを片手であけたまま、龍さんはホッと息をはいた。

「ええと・・・あの、トラさん、います?」

「おう、虎野郎は森だ森」

「あ、まだ寝てるんですか?」

 私は龍さんと会話をしながら店に入る。龍さんは厨房で何かをしていたらしく、厨房だけに明かりがついていた。

「食材もってきたら寝てるみたいだったぞ。起こしてまた八つ当たりはごめんだから、声かけてないけど」

 そうですか、と私はいって、森へと上がる階段の前で立ち止まる。二階への階段は暗く、しーんとしている。龍さんがカウンターの中から私を見て言った。

「一人で上がるか?それとも、俺が起こす?」

 一応言ってみただけ、という感じの、かなり嫌そうな声だった。トラさん、よっぽど皆を困らせたんだよね、これ・・・。私はちょっと苦笑して、首を振る。

「大丈夫です、行ってみますね」

 それから店の奥、壁のほうを向いた。そこに飾られているのは山神様。私は久しぶりに目にしたその祭壇にむかって、両手をあわせて頭を下げる。

 山神様―――――どうか・・・山神の虎が暴れませんように!!

 ちらりと龍さんを見ると、親指を上にたてて頷いている。頑張ってこいって言ってるんだろうと思い、私は頷いてみせて、そろりと階段を上がりだした。

 


 明日後編です~。



気まぐれ短編クリスマス編①「バウンス・ベイビー!」後編



 明るく輝く駅前に行きたくなかった。

 だってこんなに悲しいのに。

 あんな明るいところへなんて。私、一人で。一人っきりで――――――

 鼻が詰まって、涙がこぼれる。うわあ~・・・私ったら泣いてるよ~・・・。ダメよ、そんな。情けない。余計惨めになるじゃない・・・。

 だけど涙が止まらなくて、私は夜の公園で一人途方に暮れる。

 ・・・ああ、どうしたらいいんだろう。

 その時、手に握り締めていた携帯電話が突然振動をはじめたので、私はびっくりして悲鳴を上げた。

「うわあ!」

 マナーモードにしている携帯がブーブーと震えている。心臓をドキドキ言わせながら画面を見ると、知らない番号だった。

 不審に思って一度は無視する。だけど一度切れたあともまたかかってきたから、これは私に用がある人なんだろうな、と思って恐る恐る通話ボタンを押した。

「・・・はい?」

『あ、千秋?えーっと、俺、平野です』

 あ。

 私はその場でがばっと立ち上がった。平野?平野ーっ!??

「え、平野!?え、だって電話番号・・・」

 混乱した私がそう叫ぶと、電話の向こう側でヤツはせかせかと話し出した。

『昨日不注意で水につけちゃって、電話壊れたんだよ。ごめん、それでずっと連絡出来なくて』

「え・・・あ、そうだったんだ・・・」

 力が入っていた全身がすっと緩んだのが判った。平野は続けて話している。

『千明の電話番号うろ覚えで、どっかに書いたよなって探すのに手間取って。えーっと、それで今どこ?俺、作業場の前に来てるんだけど、もう閉まってるじゃん』

「え!?会社に来てるの?」

 私はつい叫んでしまった。あっちはあっちで私を迎えに行ってたとか!何よこのすれ違い~!

「あの・・・今日はリーダーが張り切って仕事してね、かなり早く終わって・・・」

 あははは、と電話の向こうで平野が笑っている。高峰さんてこういうの可愛いよな、なんて言って。そのいつもの平野な感じに私はホッとしながらも、今更ながら怒りが湧いてきた。

「で、私は今、平野の家に来たのよ」

『え?』

「そしたら部屋は空っぽで、君とはずっと連絡がとれず、これはきっと振られたってことなんだなって思って、まーっくらな公園で打ちひしがれていたところ」

 電話の向こう側が沈黙した。

 私は突っ立ったままでその沈黙に眉をひそめる。どうするの、平野。一体なんて説明するつもり―――――

『ごめん』

 低くて小さな声が聞こえた。

『本当、悪かった。タイミングがあわなくて、知らせられなくて』

 返事が出来なかった。だけど、電話から聞こえてくるその声は、心底そう思ってるんだって伝わる真剣さがあった。

『駅で待ち合わせしよう。手間かけて本当に悪いけど、こっちまで戻ってきてくれないか?』

「・・・わかった」

 私はそれだけを言って電話を切る。そして、鞄を引っつかんで歩き出した。キラキラと輝いている、楽しそうな駅前に向かって。何がどうなっているのかはいまだに判らない。だけど、どうやら平野に嫌われたわけではないらしい。それが判れば嬉しかった。とにかく会いたかった。顔を見て、話を聞きたかった。

 期待していたクリスマスとは全然違う。だけど、会えるなら―――――

 私の会社の最寄駅のホームで、平野は待っていた。

 黒いコートの下はまだスーツ姿で、どうやら仕事帰りに直接きたらしいとわかる。電車の窓越しに、手も振らずにしばらく見詰め合う。

 ・・・何か、久しぶりだ。髪がちょっと伸びてる。真面目な顔。きっと私が怒ってるんだって思ってるんだろうな・・・。怒ってるけど。ドアがあいて、私は他の乗客と一緒にホームへと流れ込んだ。じっと見ていた平野が近寄って、私の手を取り、そして微笑んだ。

「・・・やーっと、会えたな」

 私は泣きそうになって言葉に詰まる。もう、ここは駅のホームなのに・・・。やめてよこんなところで・・・。人ごみの中、私を引き寄せた平野がふんわりと抱きしめる。私はゆっくりと彼の背中を手でさすった。

 ああ、平野だー・・・。この匂い、やっぱり嬉しい。

「おいで。連れて行きたいところがあるから」

 体を離して手を繋ぎ、平野が先に歩き出す。

 私はぼうっとしたままでそれについていった。

 彼が私を連れてきたのは、駅から歩いて10分ほどの小奇麗なアパートだった。そこの2階へあがって、一つのドアの鍵を開ける。

「平野、ここって・・・」

 ドアを開けて通してくれながら、平野はにっこりと笑う。

「新しい部屋。おとつい引越ししたばかりで、バタバタだったんだ」

 前の部屋とは広さが全然違っていた。2LDKで、お風呂と洗面所も別々についていて、広い台所がある。

「・・・ここ?えらく広いところにしたんだね。それに―――――・・・あ」

 先に通されて進んだ私は、ダイニングと思われる部屋の入口にきて、声を失った。

 ダンボールが端に詰まれたその部屋の真ん中に、新しいダイニングセット。そのテーブルの上には、数本の蝋燭に照らされた、ケーキが置かれていたのだ。

 白くて太い蝋燭に挟まれて照らされる、大きなホールケーキ。贅沢にホイップがのせられて真っ赤な苺とサンタの砂糖菓子が飾られている。

 ―――――クリスマスケーキだ・・・。

 私はゆっくりと近づいて、その可愛いケーキに見ほれる。・・・サンタまでついてる。金色のリボンの細かい装飾にため息が出た。

「サプライズにするつもりはなかったんだけど」

 後ろで平野の声がして、私は振り返る。

「結果的にそうなっちまったな」

 彼はニコニコ笑っていた。暗くて寒い、しかもダンボールが大量においてある部屋で、えらく幸せそうな笑顔だった。

 私は体から力が抜けるのを感じた。そして、ようやく笑顔になる。

「・・・ケーキ、だけ?夕食は?」

「あー、それは用意できなくて、えーっと、一緒にスーパーに行こうかなあ~と・・・」

「ふふふ」

 鼻の頭をかく平野が可愛かった。私は頷くと、とりあえず蝋燭の火を吹き消してケーキは冷蔵庫にしまう。それから平野にエアコンをつけてもらって、一緒に買い物に繰り出した。

 時間の遅いスーパーには食べ物はほとんどないかと思いきや、まだ売れ残っていたクリスマスディナーがたくさんあって、私達はあれこれ悩みながらいくつか買う。それにワインも。そしてまた平野の新しい部屋に戻ってきて、ちょうど温められたその部屋で、乾杯をしたのだ。

「色々、本当にごめん」

 平野は何度もそういって謝った。この部屋が見つかって、気に入って即契約したら、もうすぐに住みたくなったんだ。そう言って苦笑する。それでバタバタして、色々手配して仕事も半日休んで引越しできたと思ったら、掃除している間に携帯が沈没して。

「千明に連絡できないし、よく考えたら全然話せてないって気がついて。きっと怒ってるだろうと思って、今日は直接迎えにいくことにした」

「うーん・・・。だけど見事なすれ違い!」

「本当に見事だったな。申し訳なかった。本当はこんな予定じゃなかったんだ。でも結局こんなことになって・・・」

 私はもういいよ、と手を伸ばして彼の肩を叩く。この数日、彼が死にそうに多忙だったことはもうよく判ったから。

「蝋燭つけに一回戻ったの?」

 気になっていたことを聞くと、うんと頷く。私の会社までいったらもう閉まっていたから、私に電話をかけたあとで、ここに戻っていたらしい。

「とにかく蝋燭だけでも!って。真っ暗な中にケーキだけ置いてても、見えないだろ?」

「まあそりゃそうなんだけど。ちょっと危ないよ」

 無人の部屋で燃える蝋燭。アレコレと必死な様子の平野を想像してつい笑う。

「それにさ、ここちょっと広すぎない?それに家賃も高いんじゃない?大丈夫なの?」

 ようやく空腹からも開放された私が、ワインを飲みながらぐるりと見回す。部屋も二つあるし、それはどれも6畳くらいありそうだ。これって新婚さん用のアパートなんでは―――――と思った時、だからさ、と前から平野が私の手を握った。

「・・・一緒に、住まないか?」

「え」

 驚いて顔を上げると、ばっちりと目が合った。

 平野が椅子の後ろに置いていたらしい小さな紙袋を持ち上げて、その中から綺麗な小袋を取り出す。

「プレゼント」

 渡されたそれを手のひらの上で逆さにむけると、銀色の鍵が落ちてきた。

 ――――あ・・・。

「中々会えないから、一緒に住めばいいんだって思って。千明と同じ部屋に帰りたいって思って」

 平野は照れたのか、小声でそう言って視線を外す。

 あたしは手のひらの鍵をしばらく見たあと、顔を上げた。

「・・・それで部屋を探してたの?」

「そう」

「私の意見もきかずに?」

「う・・・そう」

「それでここに決めちゃったの?」

「・・・う、うん」

「私の了解もないままで?ならどうして始めからそうだって言わなかったの?」

「・・・・ごめん」

「もう平野ったら!」

 やっぱり私は笑ってしまった。その凹んだような顔を見ていたら、どうしても笑いがこみ上げてきたのだ。一緒に住もうと部屋を探していた?全く、それならそうと、どうして言わないのよ~!

「ここだと千明の職場はすごく近いだろ?ここは最寄り駅が二つあるから俺の通勤も楽になる。それにお風呂欲しいってずっと言ってたから、いいかなと思って・・・」

「あははは、お風呂って。うん、そりゃお風呂があったら嬉しいんだけどね、それはそうなんだけど。でも、ねえ、私に断られたらどうするつもりだったの?」

「え?」

 ヤツはぽかんとしている。そんなことは思ってもみなかったようだ。

「――――嫌か?」

 全く。その自信は一体どこからくるのよ~。私は涙が出るほど笑ったあと、立ち上がって鞄を取る。それから、困った顔で座っている平野にはいと差し出した。

「プレゼント、だよ」

「え、あ・・・ありがとう」

「開けて」

「うん。今?」

「そう」

 私は微笑む。プレゼントはキーケース。このタイミングで完全なプレゼント。彼からは鍵、そして私からは鍵入れ。これって奇跡?もしかして、これがクリスマスの神様の粋なはからいってやつなのかもね。ちょっと酔って赤くなった顔で、平野がプレゼントをあける。そして箱の中身を確認して、嬉しそうに笑った。

「これって―――」

「私とお揃いなんだよ。・・・これで同じなのは鍵だけじゃないね」


 これからは、同じ部屋に帰れるね。

 二人のファーストクリスマス。完璧じゃなかったかもしれないけれど、でもそれでいいのだ。笑顔と優しさ。それがちゃんとあったから。

 平野が立ち上がってテーブルをまわる。

 そして、笑いながら私を抱きしめた。

 私は彼の胸に顔をうずめ、思いっきり平野の香りを吸い込んだ。


 カーテンがまだかかっていない窓の外には白い粉雪。とうとう降り出したそれは、明日の朝にはちょっとは積もっているだろう。

 私達は二人でそれを眺めるはず。


 同じ部屋から、手を繋いだままで。





 クリスマス短編「バウンス・ベイビー!」終わり。明日は「山神様にお願い」前半です。

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