「ここ、ですかね~」
「ここだろうな」
コンコン。会話の後で、ノックされ、ドアが開かれた。
大きくドアを開けて、スタスタと入ってくる男と、その後ろをキョロキョロしながら入ってくる女。
男は稲葉忍。保険会社で管理職にあたる支部長をしている。長身かつ美形。仕立ての良いスーツを着こなして、トレードマークの垂れ目で周囲を見回した。
「・・・何もない」
「ないですねー」
答えた女は神野玉緒。保険会社で営業職員をして6年目になる。稲葉が担当する支部においてはダントツの稼ぎ頭である、現在28歳。
今日二人は揃ってこの部屋に呼ばれた模様。パイプ椅子2つしかない部屋を見回して、不服そうに稲葉が言った。
「飲み物すらない。どこかにインターフォンとか、ないか?」
玉緒はさっさと椅子に腰掛けて、美形の上司を呆れた顔で見上げた。
「カラオケじゃないんですから・・・。飲み物持ってこーい!とか言うの、やめて下さいよ、支部長」
ふん、と稲葉はそっぽを向く。
「俺は多忙なんだ。こんな、何もない部屋でぼーっとしてるような余った時間はないんだよ」
「いいですよ、どうぞお帰り下さい。私はアポまで時間あるんで休憩していきますから~」
稲葉はちらりと玉緒を見下ろした。今朝の対話でスケジュールを聞いたことを思い出す。そうか、夕方のクロージングがあったっけ・・・。
「暇だしロープレでもやるか?」
稲葉の提案に露骨に嫌そうな顔をして、玉緒は手を振った。
「結構です。もう完璧ですから。絶対貰ってきますよ、契約」
大体私のクロージングはあんた仕込みだ、と心の中で玉緒は突っ込んだ。
それから10分しても誰もこず、事態は進展しない。二人ともイライラしていた。
「くそ、無駄だ。帰るか」
玉緒も頷いた。
「そうですね・・・。じゃあ、支部長、私はここで」
「え?」
何でだよ、と振り返る稲葉に、玉緒は当然の顔で返す。
「ついでだからここ、飛び込みしていきます。総務はどこかな~。建物結構大きいから、従業員もたくさんいそうでしょ」
既に営業の顔に戻って、玉緒は鞄を掴んでいる。本当、営業職はこの子の天職だな―――――そう思いながら稲葉はため息をついて、彼女の後ろから歩きながら言った。
「じゃあ俺も同行するよ。・・・あ、今日名刺なかった」
途端に玉緒は手をヒラヒラと振った。
「あ、じゃあいいです。名刺持たない上司なんて邪魔なだけですから。肩書きがものを言うのに、持ってないなんて、支部長役に立たないわ~」
稲葉は絶句した。
著しく傷付いた胸の辺りを押さえて、ヨロヨロと壁に手をつく。
「・・・神野・・・今お前、俺のアイデンティティーの根底から破壊したぞ・・・」
「え?何ですか?もう行きますからね」
玉緒は、既に聞いていない。
主要女性キャラ3位「神野玉緒」(キウィの朝オレンジの夜)
最後の最後に梅沢翔子を抜かして浮上した玉緒ですね。ごめんね、イラストが雑で・・・。玉ちゃん怒らないよね~。
主要男性キャラ第3位「稲葉 忍」(キウィの朝オレンジの夜)
途中まで1位を独走してましたけど、中盤で楠本に抜かれて最後は大地にも抜かれてしまいました。私の作品の中では一番のSかもしれません。だけど、人間くささも一番という男です。この男もイラストが安定しなくて私は困ってますね・・・。
一番最初に描いた、卓球前の稲葉が一番イメージに近いんですけど、あれが二度と描けなくて。あーあ。
さて、これでキャラ投票は終わりですね。ご協力くださった皆様、本当にありがとうございました。